暖かくなり当医院も風邪やインフルエンザの患者さんが減って一段落しています。しかし一方では、ずっと咳が続く、という患者さんがしばしば来られます。普通の風邪であれば1週間もすれば治るはずなので、それ以上咳が続くようなら単なる風邪ではない可能性が高くなります。保健所から「2週間続く咳は肺結核を疑って胸部レントゲン検査を」と指導されていますが、レントゲンを撮っても肺結核や肺癌、肺炎などの所見がないのに咳が続くという方がよくあります。
そのような場合に多いのが咳喘息で、報告者によって異なりますが、慢性的な咳の患者さんの36~55%を占めるとされています。喘鳴(胸や喉でのヒューヒューやゼーゼー)はありませんが、気管支喘息の一種と考えられており、30~40%は気管支喘息に移行するとされているので要注意です。おとなでは女性に多く、寝るときや深夜、早朝に悪化しやすく、風邪引きや冷気、運動、タバコ煙、湿度の上昇、花粉や黄砂の飛散などで咳が強くなります。気管支喘息と同じく吸入ステロイド薬や気管支拡張薬が有効で、早めの治療で気管支喘息への移行を防ぐことができますが、治療中止で再燃することもあります。咳症状が強い場合は抗アレルギー薬が追加されます。
次に多いのがアトピー咳嗽で、15~29%との報告があります。アトピー素因(花粉症やじんましんを起こしやすい体質)を持つ中年女性に多く、喉がイガイガして咳込みます。やはり寝る前や早朝、起床時に多いのですが、エアコン、タバコ煙、会話(電話)、運動、精神的緊張などがきっかけで咳が出ます。咳喘息と違って気管支拡張薬は効かず、抗ヒスタミン薬やステロイド薬が有効です。喘息へ移行することはありませんが再発はあります。
レントゲンで異常がないのに咳が長引く病気としては、そのほかにも感染後咳嗽(急性上気道炎に続く咳で、自然に治る)、慢性気管支炎(黄色などの色の付いた痰を伴う)、副鼻腔気管支症候群(慢性副鼻腔炎を伴う気管支炎症状)、胃食道逆流症(胸焼けなどの症状を伴う)、高血圧の薬(ACE阻害薬)による咳、などがありますが、いずれにしても2週間以上咳が続くときは、先ず胸部レントゲン写真で異常がないことを確認し、正確な診断と治療を受けることが大切です。