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医師会ニュース 平成28年10月1日

麻しんの怖さと対応策

7月末に関西国際空港で発生した麻しん(はしか)の集団感染は、兵庫県や千葉県、さらには9月下旬には奈良県にまで広がっています。詳しい感染経路がわからないものもあり、いつ、どこで、誰がかかってもおかしくないような状況になってきています。昔は「命さだめ」の病気と言われ、小さい子どもの生死に関わる病気でした。そして今でも根本的な治療法がなく、時には肺炎や脳炎、心筋炎などを合併し、特に脳炎を発症すると15%の人が亡くなり、回復しても20~40%に精神発達遅延、行動異常などを遺すとされています。また、ごく稀に10年以上も経ってから亜急性硬化性全脳炎という重症脳炎を発病することもあります。

 さらに恐ろしいのはその感染力です。麻しんウイルスは咳や唾液からの飛沫感染、ドアノブなどの接触感染だけではなく、空気感染(飛沫核感染)でも感染します。つまり同じ空気を吸っているだけでも感染がおこり、その感染力はインフルエンザよりも強く、すれ違っただけで、あるいは病棟の同じフロアの端と端に居ただけでも感染した、とういうこともあるそうです。そして耳後部・頚部・前額部から全身に広がる湿疹をみれば麻しんと診断されますが、最初の2~4日間の症状は38℃前後の発熱、咳、鼻水などであるため風邪と診断されてしまうことが多いのです。しかしそのときにはすでに麻しんウイルスが排出されていて、周囲にウイルスをばら撒いており、感染が広がってしまうのです。ですから感染を予防することはかなり困難なことなのです。

 ではどうするか。あらかじめ麻しんワクチン(現在は麻しんと風しんの混合ワクチン;MRワクチンになっています)を接種してしっかりと免疫をつけておくことです。そのためには2回のワクチン接種を受けておくことが必要です。2006年から、それまでの1回接種が2回の定期接種(1歳になったときと就学前1年間)になり(2008年からの5年間は中高生にも2回目の接種機会が与えられました)、昨年3月には世界保健機構WHOが、日本土着の麻しんウイルスはいなくなったとする「麻しん排除状態」に認定するまでになりました。しかし今回また麻しんが日本国内で多発しているのは、もちろん海外で感染した人が麻しんウイルスを持ち込んだことが発端ですが、感染して発病したのはほとんどがワクチンを一度も接種せず麻しんに対する免疫がないか、あるいは2回目の麻しんワクチン接種を受けておらず十分な免疫がついていない人たちです。したがってまだワクチン2回接種を受けておられない方々には是非ワクチン接種を受けていただきたいのですが、現在、1歳時と就学前の子どもたちのワクチンは何とか確保できても、残念ながら成人に回せるだけのワクチン数がありません。今、成人の方々が出来る最善の方法は、医療機関での血液検査(健康保険は使えません)で麻しんに対する免疫(抗体)が十分量あるかどうかを調べ、免疫がないか不十分であれば麻しんの可能性のある人(麻しん患者に接触したかその可能性があり発熱している人)との接触を避けるなどしておいて、ワクチン接種が出来るようになればすぐに接種を受ける、ということでしょう。

最後に。万一、ご自分が麻しんにかかってしまったと思ったら、医療機関へは直接行かず、まず電話などで医療機関か保健所にご相談ください。麻しん感染者をこれ以上増やさないために是非必要なことです。ご協力をお願いいたします。

(春日 宏友先生 平成28年10月1日)

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