ホーム HOME > 健康メモ > 医師会ニュース 平成24年10月1日 

医師会ニュース 平成24年10月1日

憂うつ気分と丹田呼吸

 前回、意識しないと呼吸ができなくなる呪いを掛けられたハンス青年の話をしました。体内に酸素を取り込んで炭酸ガスを吐き出すという呼吸運動は無意識のうちになされています。そして運動中など酸素がたくさん必要な時には自然と呼吸が速くなります。しかし一方では、心臓や胃腸とは違い、自分で意識して呼吸を速くしたり、深くしたりできます。呼吸を自由に操れることに意味はあるのでしょうか?実は、呼吸をコントロールすることで心や体をコントロールすることが出来るのです。今回はその一端をお話しましょう。


 人は憂うつな気分になると弱い胸式呼吸になり、呼吸が浅く、方や胸壁がこわばってしまいます。このときに大きなため息をつくと、肩や胸の力が抜けて上半身がほぐれ、楽になります。さらに複式呼吸にし、息を吐き出す時に下腹部(丹田)に意識を集中して、できるだけ時間をかけてすべてを吐き出すようにする(これを丹田呼吸と呼びます)と、憂うつな気分がもっと改善されるはずです。実は、この呼吸をすると、腹腔内圧が上昇し、内臓が刺激され、蠕動運動が活発になり血液循環もさかんになり、その結果全身が温かくなり、脳の視床下部から鎮静化ホルモン(βエンドルフィンなど)が分泌され、リラックスできるようになる、と考えられます。また、ゆっくりとした丹田を繰返しますと、脳内のセロトニン分泌量が増加することもわかっています。このセロトニンの不足はうつ病の原因のひとつと言われており、実際に最近のうつ病治療薬の主力はセロトニンを増やす薬です。つまり効果に差はありますが、丹田呼吸はうつ病治療薬と同じ作用があるわけです。
あ、やるぞ!」というときには息を吸い込み、仕事が終わったときには「ホッ」と息を吐いていませんか?

 

 臨戦態勢になり気分を高揚させたいときには無意識のうちに息を吸い、緊張を解いたり、冷静になりたいときには無意識に息を吐いているのです。このようにわれわれは自然に呼気と吸気を使い分けているのです。ちなみに、笑う時は「ハッ、ハッ、ハッ」と息を吐くことが普通ですが、奈良県出身の某お笑い芸人さんはなぜか息を吸い込む「引き笑い」になっています。やっぱりちょっとおかしな人です。

 

(春日 宏友先生 平成24年10月1日)

ページの先頭に戻る