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医師会ニュース 平成24年7月1日

「オンディーヌの呪い病」と「ピックウィック症候群」

 今回はまずギリシャ神話の話をしましょう。美しい水の妖精オンディーヌは、ある日河辺を通り掛かった人間の青年騎士、ハンスと恋に落ちました。二人は幸せな日々を送っていました。しかしk、オンディーヌはいつまでも年をとらず美しいままですが、ハンスは人間ですので次第に若さを失ってゆきます。いつしか絶望したハンスは若い人間の女性と結婚してしまいます。オンディーヌは怒りの余り、ハンスに恐ろしい呪いを掛けました。その呪いとは、意識しないと呼吸ができなくなる呪いです。昼間、起きているときは意識して呼吸をするため息苦しさも感じないのですが、ウトウトして呼吸することを意識できなくなると呼吸が止まり、息苦しさに目が覚めてしまいます。眠ることが死を意味するようになり、眠ることができなくなってしまいました。けれども、いくら我慢しても眠気は襲ってきます。息苦しくなっても、もう眠くて眠くて。そして、とうとうハンスは、、、。

 

 このハンス青年のように、まるで呪いを掛けられたかのように夜間に自然と呼吸が止まってしまう病気があり、「オンディーヌの呪い病」と呼ばれていました。現代では「睡眠時無呼吸症候群(以下、SAS)」のひとつである「中枢性SAS」と呼ばれています。これは脳血管障害や重症心不全による呼吸運動中枢の障害が原因です。

SASの原因にはもうひとつあります。寝ている間に舌などの筋肉が緩んだりすることで気道(呼吸の通り道)が塞がって呼吸が止まってしまうもので、「閉塞性SAS」と呼ばれています。SASとしてはこちらの方が多く、夜間に途切れる(呼吸が止まる)大きなイビキが有名で、このイビキがキッカケで気付かれる方がほとんどです。この「閉塞性SAS」にも昔の名前(病名)があります。それは「ピックウィック症候群」といいます。病名の由来は、1956年にある学者が日中の強い眠気などを訴える肥満の患者について報告しましたが、その学者は、この患者がチャールズ・ディケンズの小説のなかの「ピックウィック・クラブ」に登場する少年、ジョーに似ていることを思い出します。少年ジョーはいちも日中眠く、赤い顔をして、太っており、この患者の症状にそっくりでした。このようなことから彼はこの病気を「ピックウィック症候群」と呼びました。

 

 以上、今回はあまり病気そのものの話はしませんでしたが、夜間の大イビキがあり、しかもそれが途中で止まったり、昼間にどうにも我慢できない眠気にしばしば襲われる、と云う人は、何かの呪いが掛かっているのかも知れません。どうぞ早めに神社でお祓いを、ではなく医療機関を受診してください。さもないと、ハンスのように、、、、、?

 

(春日 宏友先生 平成24年7月1日)

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